70周年記念ロゴデザイン〜デザインが持つ伝える力

デザイン担当・林さん×スワン洋菓子店さん座談会
「あら、スワンさんは今年70周年なの!」70周年ロゴ入のスタッフTシャツを着て、本鵠沼の商店街を歩いていると、声をかけてくださる人が多いそう。
「デザインの持つ≪コミュニケーション力≫に驚きました。」と三代目スワン洋菓子店のご主人であるシェフを支え、店頭を切り盛りする中西貴子さん。
伝えたいことがあるから、自分たちから発信したい
「どうして周年記念のデザインを作っていただくかというと、自分たちから発信しないとと70周年を迎えられたことがなかなかお客様に伝わらないからです。」と中西さんは言います。
その口調からは、数々の時代を乗り越えてお店を続けてきた創業者や先代へのリスペクトが根底にあることが伝わってきます。
「70周年キャンペーンは一年のたった数日間だけで終わってしまうような、ありふれたスタイルではなく、じわじわとお客様にアピールしていけるよう、ゆったりと展開したいと思っていました。」と中西さん。
70周年記念ロゴは本鵠沼在住のデザイナー、林浩二さんにお願いしたい!とずっと前から決めていたそう。
この度は70周年特別企画として、「70周年デザインロゴ」を担当された本鵠沼在住30年のデザイナー林浩二さんにお話を伺いました。

ー林浩二さんはいつから本鵠沼にお住まいなのですか?
林浩二さん(以下 林):
平成5年、39歳のときに引っ越してきました。友人と運営していたデザイン会社が東京都港区にあったので、本鵠沼から電車通勤していました。
子供の頃のケーキを思い出させてくれるスワン洋菓子店
ースワン洋菓子店さんの印象を教えてください。
林:
私は6月生まれなのですが、子供の頃、気温が高い、夏場は生クリームのホイップクリームのバースデーケーキは売っていなかったんです。当時、冷蔵設備が今のようではなかったんですね。
それで自分のバースデーケーキはバタークリームだったんです。
その当時の洋菓子のケーキを思い出させるようなケーキがスワンさんにはあります。子供の頃に食べたケーキへのノスタルジーのようなものが感じられるケーキ屋さんだな、と思いました。
ー林さんはお客さんとしてケーキを買いに来ていらしたんですね。中西さんはご結婚を機にスワン洋菓子店でお仕事されるようになったんですよね。
中西貴子(以下、中西):
私は結婚するまでケーキは身近な存在ではありませんでした。ケーキを買うことは特別なことと思ってました。スワン洋菓子店で接客するようになって最初に感じたのは、湘南らしいカジュアルスタイル、短パンにサンダル(または突っかけ)を履いて、ふらりと男性が一人でシュークリームやレモンパイを買いにいらっしゃる姿に、「さすが鵠沼の人は違うなー!」と(笑)衝撃的でした。
スワン洋菓子店で子どもの頃におじいちゃん、おばあちゃんに買ってもらって、一緒に食べた「思い出のスイーツ」を大人になっても自分で買いに行く、という方が鵠沼周辺にたくさんいて、すてきだな、と思いました。
ー中西さんから林さんへデザインをお願いするとき、デザインについて注文したことは何ですか?
中西:
林さんのようなキャリアのある方に、町の小さなケーキ屋さんのロゴデザインをお願いするなんて恐れ多すぎて、ギリギリまで内に秘めていたのですが、勇気を出してスカウトさせていただきました。まるで告白タイムのように心臓ドキドキでした。
「66周年の時のロゴ(※筆者注 66周年デザインは別の方が担当されました)と同じくらい、アイキャッチの力を持つデザイン」をお願いしますと言っただけで、ほとんどおまかせだったと思います。
以前、『本鵠沼はす池通り物語』という本鵠沼の町プロジェクトがありました。
このとき本鵠沼商店街では、地元の憩いスポットである蓮池にちなんで作った商品を販売したり、絵本やCDを作ったり、一連の活動が評価されて、黒岩祐治神奈川県知事から「神奈川なでしこブランド2015」で「神奈川なでしこブランド」に認定されたんです。
実はこのプロジェクトのロゴデザインを担当されたのが林さん。「レンコン」にちなんだデザインを作ってくださいました。競合のなかから選ばれて認定を受けることができた理由のひとつに「ロゴのデザインの力」があるということをそのとき実感しました。

林:
(プロジェクトを紹介する当時のタウン紙を見ながら)あのプロジェクトの「れんこんマーク」の中に色が入っているのは、実は映画や舞台の撮影で使う照明に着想を得たものです。昭和の頃、鵠沼は「映画の街」だったからです。


の記事をふりかえる。
ー古くから鵠沼エリアには文学関係者が住んでいましたが、映画の撮影所が近いこともあり、映画監督や俳優スターが住んでいた場所でもありますよね。「本鵠沼はす池通り物語」で手掛けたデザインは、鵠沼の歴史を踏まえたデザインだったんですね。
林:
スワン洋菓子店の70周年ロゴは、定番ケーキの「モカロール」の断面からみたところ。
それと数字は「コーヒーロール」(※創業から続くロングセラー商品)の”coffee”の書体を採り入れました。
スワンといえば「コーヒーロール」
手描きのcoffeeの字体が印象的

ーくるんと巻き上がった美味しそうなロールケーキのイメージですね。ちょっとにっこりしたくなる、のびのびとしたユーモラスな印象がすてきです。親しみやすさを感じます。
中西:
先日、地域学習で来た小学生がシェフを見て「あ! ロールケーキ」と言ってくれたんです。デザインによって、お店のケーキの愛らしさがしっかり伝わってることにうれしくなります。
ー子どもたちにもしっかり、伝わっていますね!
70周年ロゴで大切にした「今あるものは変えずに」現代に伝えること。
林:
スワン洋菓子店は70周年を迎えた、言ってみれば老舗のお菓子屋さんですが、鵠沼住人からすると「街のケーキ屋さん」という親しみやすい存在なんです。
もともと長く使われた白鳥のロゴがあって、それを簡単に変えちゃいけないなって。
これはある老舗和菓子屋さんのデザインに関わった方のお話なのですが、ロゴデザインなどさまざまなものを「変える」というのは「そこにすでにある、長く使ってきたものを否定する」という意味合いになってしまいます。それでは長く関わる方にとっては、受け入れ難い。
でも、あくまで今あるものを尊重して、「時代にあわせて整える」という方法だと受け入れてもらえる、という話があるのです。
ー「整える」という提案には、相手へのリスペクトを感じます。それで以前からのロゴを生かして、数字を入れるというデザインになったのですね。

中西:
元のロゴを現代のプロの視点で今風にアップデートしているんですよ。私はあるとき、ほかのお店屋さんのロゴを見て「お店の思いがつまったもの」がロゴなんだなと気がついて。本当にいろいろな文字があるなかで、お店で使われてきた、大切なもの。これを簡単には変えちゃいけないですよね。
林:
「A」のボリューム感とか違うでしょ。「A」と「N」の感じとか少しづつ違うでしょう。デザインの具体的な作業について説明する必要はないのですが、見たひとに自然に伝わっていくものですね。
ー従来のデザインよりもしっかり「鵠沼」が伝わりますね。
林:
そこは貴子さんのこだわりですよね(笑)。
ーすごく分かりやすくなった感じがします。どこが変わったのか、私には全部はもちろんわからないのですが、美しいなと感じます。
中西:
先日、ご近所の八百屋さんでその場に居合わせたお客様から「え?もしかしてスワンさんて70周年なんですか?」って声をかけていただいて。すてきなコミュニケーションになっています。
林:
やっぱり70周年ということはすごいことだよね。
中西:
林さんはスワンが誕生した頃の空気感を知っているから。
林:
懐かしいですよ。サバランとかね
ースワン洋菓子店さんには、箱根の古い老舗のホテルや、あとは都内の下町にあるようなバタークリームのケーキやサバランがありますよね。
林:
湘南に残っててびっくり。サバランは昔からこういう形だったよね。
ー知っている方はこういう形だと知っているんですね。
中西:
本場フランスのものは丸いらしいですね(笑)。戦後、海外に行ったことがない日本人が一生懸命イメージして作った、「日本人が創作したケーキ」なんですよね。近年はヨーロッパの本場で学んだパティシエが帰国して本格的な洋菓子が販売されている時代。それでも、その昭和の昔ながらのケーキを今も「おいしい」と買ってくださるお客様がいるから、作り続けられています。
当時、先々代が自信を持って世に出したものが、時を経て、現代も続いているということにリスペクトを感じているんです。昔は材料も豊富ではないし、確保するだけでも必死だったと聞いています。
戦後、時代が少し落ち着いて、GHQもいなくなって。これからの日本は何が求められているのかいろいろ探っていたスワンの初代が「これは売れる」と始めたものが洋菓子でした。
ロングセラーのケーキから着想を得たデザインで、お客様も思わず笑顔に。
林:
「コーヒーロール」が、創業からずっと続いているロングセラーのケーキと聞きました。今でも変わらない人気で、お客様もよく買いに来られるということなのでロールケーキの断面をデザインしました。

中西:
常連のお客様に「このデザインは、モカロールなんです」というと、ほとんどの人が思わずフッと笑顔になるんですよね。遠い記憶がよみがえるのか、ご自分とスワンあるいは鵠沼のプチヒストリーを披露される方もいらっしゃいます。
ー太さとかクリームが巻き込まれている感じがします。

林:
スワンさんは街のケーキ屋さん、背伸びせず、末永く続いて欲しいケーキ屋さんなのでこういうのがいいかなって思いました。
ー70周年にふさわしく、新年のお祝いの伊達巻のように縁起良く「おめでたい」感じがします!

林:
このロールケーキのデザインだけを入れて、いろいろグッズにしても楽しいかもしれませんね。
これだけでコミュニケーションできる、来年でも使えるよって。Tシャツでもバンダナでもなんでも使えるかな?と考えていたんですよ。
ー保冷バッグがとてもすてきですね。
中西:
70周年記念キャンペーンの第一弾に使わせていただきました。(現在はキャンペーン終了)お客様の反応は、まずスワン70周年と聞いてキョトンとされて、保冷バッグを見てビックリされて(笑)こちらも嬉しくなりますね。
お店の外から店内をのぞくと、あの70周年のロゴがよく見えるんです。すごくアイキャッチ効果があって、70周年とちゃんと伝わるんです。初めはノボリを作ろうかな、と思っていたのですが、これだけ伝わりやすいものが出来たから、この保冷バッグを店頭におけば十分だと気付きました。
林:
カッコいいデザインというだけでなく、後ろにあるストーリーや意味、何をしたいかよく考えてデザインしますよね。
「なぜ、それがいいのか」説明できないとデザインコンペでは競合に勝てないんですよ。理屈を越えたところで「かわいいデザイン」とかもあるけれど、こういうベーシックなものはちゃんと理屈があったほうがいいと思うんです。
「God is in the details(神は細部に宿る)」という言葉があります。要するに細かいところに凄さがある。気を使っている、配慮しなくてはいけないということなんです。わからなくてもいいけれど細かいところが全体を作ってるんです。
座談会おわり

インタビューを終えて
インタビューが行われたのはスワン洋菓子店の店内。酷暑の鵠沼、そこに現れたのはスワン70周年Tシャツを着て颯爽と現れた林浩二さん。まさにビーチサイドの街で暮らす大人のイメージそのもの。程よく日焼けした肌にTシャツと短パンの着こなしがさりげなく決まっていました。
長年デザインのお仕事を第一線でされていた林さん。企業の「コーポレート・アイデンティティー(Corporate Identity」のお話など交え、今回の「スワン洋菓子店70周年ロゴデザイン」制作について丁寧にお話してくださいました。

実は林さんは関西エリアのご出身です。林さんのお母様はご存命の頃、お茶の先生をされていて、会席料理なども作っていたそう。そんなご家族の影響もあって、審美眼が磨かれたのかなと勝手に想像してしまいました。
林さんはお母様の影響も感じられるような美しい料理や漬物作りをこなし、パソコン「MAC(マック)」を使ってデザインのお仕事も引き続き手がけていらっしゃいます。また「バンド活動が楽しい」とギターの練習にも余念がなく、地元の仲間と音楽活動を楽しんでいます。
そして、愛犬アンリ君とビーチサイドを散歩する、何気ない日々も大切にされています。「鵠沼」ならではの暮らしかもしれません。

シニアと呼ばれるご年齢でも、明るく地元で活躍される林さん。湘南の光とさわやかな潮風がお人柄を作っているのかも、と思わずにはいられませんでした。

この日は筆者の名刺を見ていただいて、「顧客にあわせて色を変えてもいいかも」「季節で変えても」と楽しいアドバイスをしていただきました。気さくなお人柄の林さん、おかげさまで笑顔の絶えない和やかな座談会となりました。
お忙しいところ、林さん、中西貴子さんありがとうございました!
text:中村 伊知花
ライター紹介
中村 伊知花
神奈川県出身、横浜市在住。海と山をこよなく愛するワーママ。生活情報誌、手帳関連のWebディレクター業務を担当後、現在はフリーランスの編集/ライターとして地域情報・フード情報を執筆。スワン洋菓子店の中西貴子さんと鵠沼の海で知り合い、十数年来の友人。
スワン洋菓子店での「推し」ケーキは「レモンパイ」と「湘南鵠ッ子」。